薬疹
薬疹とは
薬疹(やくしん)とは、薬が原因で起こる皮膚や粘膜の症状のことです。
一般に「薬かぶれ」と呼ばれることもあります。
内服薬や注射薬だけでなく、湿布、塗り薬、目薬、吸入薬などでも起こることがあります。
症状は、赤み・かゆみのような比較的軽いものから、高熱、広い範囲の発疹、水ぶくれ、目や口のただれ、肝臓や腎臓などの臓器障害を伴う重症例までさまざまです。
薬疹の中でも特に注意が必要なのは、スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)、中毒性表皮壊死症(TEN)、薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS)などの重症薬疹です。
これらは早い対応がとても重要で、入院や全身管理が必要になることがあります。
主な症状
薬疹の症状はひとつではなく、出方にも個人差があります。
軽い薬疹では、赤い発疹、かゆみ、じんましんのような盛り上がり、湿疹のような症状がみられます。
また、いつも同じ場所に繰り返し出る固定薬疹や、外用薬・湿布などで起こる接触皮膚炎型の薬疹もあります。
一方で、次のような症状がある場合は重症薬疹の可能性があり、注意が必要です。
・38℃以上の発熱
・皮膚の広い範囲が赤くなる
・水ぶくれ、びらん、皮がむける
・目の充血、めやに、まぶたの腫れ、目が開けにくい
・唇や口の中のただれ
・陰部のただれ、排尿時・排便時の痛み
・のどの痛み、強いだるさ、食欲低下
・リンパ節の腫れ
特にSJS/TENでは、眼・口唇・外陰部などの粘膜病変が重要なサインです。
DIHSでは、発疹に加えて高熱や肝機能障害、血液検査異常を伴い、症状が長引くことがあります。
原因
薬疹は、どの薬でも起こる可能性があります。
特に原因として比較的多いとされるのは、抗菌薬、解熱鎮痛薬、かぜ薬、抗てんかん薬、痛風治療薬などです。
市販薬(OTC)を含む総合感冒薬や解熱鎮痛薬でも重症皮膚障害の報告があります。
また、薬疹の原因は処方薬だけではありません。
湿布、塗り薬、目薬、吸入薬などの外用・局所治療薬でも起こります。
患者さんご本人が「飲み薬ではないから関係ない」と思っていても、原因になっていることがあるため注意が必要です。
症状が出るまでの時間は病型によって異なります。
比較的軽い薬疹は内服後数日〜1、2週間程度で出ることがありますが、DIHSは内服開始から2週間以上たってから発症することが多く, 薬を中止した後もすぐには治まらず、長引くことがあります。
検査および診断
薬疹の診断では、まず「どの薬を、いつから、どれくらい飲んだ(使った)か」を丁寧に確認することが重要です。
診断の手がかりになるのは、薬の開始時期と発疹の出現時期の関係、皮疹の形、粘膜症状の有無、発熱や全身症状の有無です。
DIHSのような重症薬疹では、病歴に加えて臨床経過や血液検査所見が特に重視されます。
必要に応じて、血液検査で炎症反応、白血球数、好酸球、肝機能、腎機能などを確認します。
重症薬疹が疑われる場合には、尿検査、胸部画像、皮膚生検(病理検査)などを追加することもあります。
原因薬の特定のために、パッチテストや薬剤リンパ球刺激試験(DLST)などを行うことがあります。
ただし、これらの検査は薬によって陽性率が異なり、陰性でも原因薬を完全には否定できません。
再投与試験は確定に有用ですが、再び重い症状を起こす危険があるため、慎重な判断が必要です。
また、原因検索の検査はタイミングが重要で、病型によっては急性期ではなく、症状が落ち着いてから行うほうが適していることがあります。
たとえばパッチテストは、DIHSガイドラインでは治癒後6週間〜6か月後などの時期が示されています。
治療
薬疹治療の基本は、原因と考えられる薬を見つけて中止することです。
そして、今後同じ薬、あるいは似た成分の薬を避けることが大切です。
一度アレルギーを起こした薬を再度使うと、初回より重症化することがあります。
軽い薬疹では、症状に応じてステロイド外用薬やかゆみを抑える内服薬などで治療します。
皮疹の範囲が広い場合や、発熱、粘膜症状、血液検査異常などを伴う場合には、ステロイドの内服や点滴による治療が必要になることがあります。
SJS/TENやDIHSなどの重症薬疹では、入院のうえで全身管理が必要です。
SJS/TENでは眼病変の管理が重要で、眼科などとの連携が求められます。
DIHSでは重症度に応じて全身ステロイド治療が検討されます。
診断の注意点
薬を飲んだあとに発疹が出たとしても、すべてが薬疹とは限りません。
感染症や他の皮膚疾患が似た見た目になることもあります。
特にSJSは、薬剤性だけでなくマイコプラズマや一部ウイルス感染でも起こることが知られています。
また、重症薬疹は初期には「ただの発疹」に見えることもあります。
目の症状が皮膚症状より先に出ることや、DIHSのように服用開始から2週間以上たってから出ることもあるため、「飲み始めてから時間がたっているから関係ない」とは言い切れません。
検査結果にも注意が必要です。
血液検査(DLST)やパッチテストは役立つことがありますが、陰性でも原因薬を否定できないため、最終的には皮膚症状の経過、服薬歴、検査所見を合わせて総合的に判断します。
日常生活で気をつけたいこと
新しい薬を飲み始めたり、使い始めたりした後に、赤み、かゆみ、発疹、発熱、目や口の違和感が出たら、我慢せずに早めにご相談ください。
特に、目・口・陰部のただれや高熱を伴う場合は、早めの受診が大切です。
受診の際は、お薬手帳、処方内容がわかるもの、実際に飲んでいる薬・使っている薬、市販薬、サプリメント、漢方薬などをできるだけ持参してください。
薬疹は処方薬だけでなく、外用薬や市販薬でも起こりうるため、情報が多いほど診断の助けになります。
一度薬疹を起こした薬は、自己判断で再開しないことが大切です。
今後ほかの医療機関を受診する際にも、「この薬で薬疹が出たことがある」と必ず伝えましょう。
当院の治療
当院では、まず現在使用中のお薬を丁寧に確認し、発疹の出方、服薬開始からの経過、全身症状の有無をふまえて、薬疹が疑われるかどうかを判断します。
必要に応じて血液検査を行い、原因として疑わしい薬を整理しながら治療方針を決めていきます。
比較的軽い薬疹では、原因薬の中止の確認とともに、外用薬や内服薬で症状を抑え、経過をみていきます。
どの薬が疑わしいのか分かりにくい場合にも、患者さんと一緒に服薬歴を整理し、必要に応じて処方元の医療機関とも連携します。
一方で、高熱、広範囲の発疹、水ぶくれ、目や口のただれ、血液検査異常などがあり重症薬疹が疑われる場合には、速やかに高次医療機関へご紹介し、入院加療につなげます。
SJS/TENでは眼科連携を含めた管理が重要です。
このような場合は早めの受診をおすすめします
次のような場合は、できるだけ早く皮膚科または医療機関をご受診ください。
・薬を始めてから赤い発疹やかゆみが出てきた
・発疹がどんどん広がる
・発熱を伴う
・目の充血、めやに、まぶたの腫れがある
・唇や口の中、陰部のただれがある
・水ぶくれ、皮むけ、痛みがある
・強いだるさ、食欲低下、のどの痛み、リンパ節の腫れがある
・以前にも同じ薬で発疹が出たことがある
よくある質問
Q.薬疹は、薬を飲んですぐに出ますか?
A.すぐ出ることもありますが、数日後〜1、2週間後に出ることもあります。
さらに、2週間以上たってから出るタイプの薬疹もあります。薬の種類や薬疹のタイプによって異なります。
Q.市販薬や湿布、塗り薬でも薬疹は起こりますか?
A.はい。
処方薬だけでなく、市販薬、総合感冒薬、湿布、塗り薬、目薬、吸入薬などでも起こります。
Q.かゆい発疹だけなら様子をみてもよいですか?
A.軽い薬疹のこともありますが、初期には軽く見えても、その後悪化することがあります。
特に発熱、目・口・陰部の症状、水ぶくれ、強いだるさがある場合は、早めの受診をおすすめします。
Q.原因の薬は検査ですぐ分かりますか?
A.すぐに確定できないことも少なくありません。
血液検査(DLST)やパッチテストは参考になりますが、陰性でも原因薬を否定できないため、服薬歴や症状の経過を含めて総合的に判断します。
Q.一度薬疹が出た薬を、あとでまた飲んでも大丈夫ですか?
A.自己判断で再開するのは避けてください。
再投与で前回より重く出ることがあるため、必ず医師にご相談ください。
Q.重い薬疹になった場合、何科を受診すればよいですか?
A.まずは皮膚科への相談が基本です。
重症薬疹が疑われる場合には、皮膚科を中心に、必要に応じて眼科や入院可能な高次医療機関と連携して治療します。
Q.薬の副作用で入院した場合、公的な制度はありますか?
A.医薬品を適正に使用したにもかかわらず、副作用で入院治療が必要になるほど重篤な健康被害が生じた場合、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の医薬品副作用被害救済制度の対象となることがあります。
まとめ
薬疹は、薬をきっかけに起こる皮膚症状の総称で、軽い発疹だけで済むこともあれば、高熱や粘膜症状、臓器障害を伴う重症薬疹に進むこともあります。
特に、目・口・陰部のただれ、発熱、水ぶくれ、強い全身症状がある場合は早めの対応が大切です。
原因薬の特定は簡単ではありませんが、服薬歴を丁寧に整理することで、今後の再発予防につなげることができます。
※本記事は、当院院長が医学的知見と日常診療をもとにまとめています。
院長 水野 謙太
